文化財DXに向けた発掘調査での活用
公益社団法人 日本文化財保護協会
- 所在地
- 東京都中央区日本橋富沢町10-13-301
- URL
- https://www.n-bunkazaihogo.jp/
概要
当協会は、埋蔵文化財の発掘調査、出土遺物や堆積物の科学分析、歴史的建造物や記念品、出土品の修復・復元・保存などを担う民間調査機関によって設立された、我が国初の全国組織です。国民共有の財産である埋蔵文化財を保護するため、必要な技術力と専門性の育成・向上を目指しています。
具体的な活動としては、埋蔵文化財に関する資格認定や検定、セミナーの運営、調査研究、広報活動などを行っています。
災害復旧や防災事業に伴う工事では、工事範囲が広大なため、埋蔵文化財が存在する可能性の高い「包蔵地」である場合があり、その際には大規模な発掘調査が必要となります。当協会では、こうした場合に行政機関等の要請を受け、会員企業と協力して発掘調査を受託しています。


しかし、少子高齢化により担い手不足が深刻化しており、デジタル技術を導入して効率的に発掘調査を進める必要性が高まっています。そこで、単にデジタルデータで調査結果を残すだけでなく、取得から保存・活用までを体系的に最適化し、行政と民間が協業できる「文化財DX」を推進します。当協会は文化財DXに主体的に取り組み、全国の関連機関や企業との情報共有や業務連携し、持続可能な文化財の保存と活用を実現してまいります。
今回事例に取り上げるのは、発掘調査におけるデジタルデータの取得です。
作業概要
従来、発掘場所の特定や発掘後の遺物の位置取得は、トータルステーションやメジャーなどの測量機器を用いて専門家が行っていました。
今回は、タブレット端末に3次元スキャナとGNSS受信機を接続して利用するハンディスキャナ(Pix4D catch RTK)を用いて観測を実施しました。
位置情報の取得にはジェノバのネットワーク型RTKを使用し、トータルステーションによる位置取得と比較して遜色がないことを確認したため、導入を決定しました。
ハンディスキャナを複数台用意し、複数人で遺構等の点群データを取得することで、短時間で現場計測が可能となり、各人のデータを集約して3次元点群モデルを作成します。
現在、発掘調査の納品物は2次元の図面ですが、3次元モデルから2次元図面を出力することで対応しています


結果/導入メリット
デジタルデータを活用することで、現地でのデータ取得については従来の手法に比べ1/2~1/3の時間短縮がはかられています。
従来の発掘調査では、専門の計測員が遺構等の位置を計測し、写真撮影や手書図面制作を行っていましたが、3次元スキャンを導入することで、専門の計測員でなくても現況の位置と状況を正確に記録でき、大幅な省力化が可能となります。
手書図面は専門の担当者が対応しなければなりませんが、簡単に取得できる写真撮影についても、調査員が撮影角度や方法を判断し、さらに調査の進行に伴い元の状態が失われる前に調査記録として多数の写真を撮影していました。しかし、3次元スキャンにより現況全体を記録し、位置情報も同時に取得できるため、工数の削減や有益な3D記録の取得に役立っています。
今後は、取得したデジタルデータを単なる発掘調査結果として利用するだけでなく、データを標準化し、さまざまな分野で利活用できるよう整備を進めます。ジェノバの補正情報を用いた観測位置は国家座標に準拠しているため、発掘調査結果を現行地図と容易に整合でき、データ活用の幅が広がります。
データの利活用例としては、首里城やノートルダム大聖堂の復旧への活用、VRによる過去の景観再現などが挙げられます。これにより、学術的探究やエンターテインメントなど新たな価値を創出し、文化財DXを通じて文化財の価値を社会に還元する取り組みを推進してまいります。
画像提供:長野県埋蔵文化財センター
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