精度を高める測位方式について

衛星測位の原理

衛星測位は、人工衛星から送信される航法メッセージとメッセージコード、搬送波位相を利用して位置を求めます。航法メッセージには衛星の位置(座標)に関する情報が含まれています。またコードには衛星から信号が発射された時刻と受信機で受信した時刻差を測定するための情報が含まれています。搬送波位相でも位相差を測定することで衛星と受信機の間の距離を求めることができます。

それぞれの情報の詳細さに応じて、スマートフォンやカーナビで使用されている10m程度の正確さで位置を求める方法からサブメートルやセンチメートル程度でリアルタイムに求める方法があり、長時間データを受信し、後処理でより高精度に位置を求める方法などがあります。

測位手法

衛星測位は、そもそもが人工衛星からの電波信号を受信してリアルタイムに位置を求める手段として開発されました。その信号を用いて測位精度を高めるいろいろな手法が考案されています。

測位衛星は上空2万キロメートル以上の距離で地球を周回しながら信号を送信しています。その軌道により約12時間あるいは約24時間で地球を一周します。上空のさまざまな方向にある複数の測位衛星から同時に信号を受信することで位置決定を行います。

測位信号には「衛星の位置」と「送信時刻」に関する情報が含まれますが、「衛星の位置」は「衛星の軌道情報」がもとになり、この「軌道情報」にも誤差が含まれます。「送信時刻」は衛星に搭載された「原子時計」により管理されますが、この「原子時計」(「衛星時計」)にも誤差が含まれます。

測位信号は電離層、対流圏を通過して受信機に到達します。通過する信号は電離層と対流圏で誤差(遅延)を含みます。これにより「電離層遅延」「対流圏遅延」の誤差が決定される位置に含まれます。

測位精度を高めるためには、これらの誤差を何らかの方法で推定・補正する、消去するなどの工夫が必要になります。測位信号の航法メッセージと、コード・搬送波位相だけでなく、それらの差(衛星と衛星の間、受信機と受信機の間)による誤差の消去、モデルによる誤差の推定・遅延量の補正などを行うことができます。位置のわかっている参照点での受信信号を用いれば相対測位になり、観測網のデータから推定された各所誤差を補正するための補強情報を用いれば精密単独測位になります。

各種手法の特徴

以下に、測位の手法とそれぞれの手法でどのように誤差を消去・低減することで測位の精度を高めているかを説明します。

衛星測位の方法は「単独測位」と「相対測位」の手法に分類されます。また「リアルタイム測位」と「後処理測位」のように、測位データの処理時間で分類することも出きます。

「相対測位」のうち、「リアルタイム測位」に分類されるのは「ディファレンシャル測位」、「リアルタイムキネマティック(RTK)測位」、「ネットワーク型RTK測位」などです。

ここでは主に「リアルタイム測位」にあたるそれぞれの手法と特徴について説明します。

[ディファレンシャル(DGNSS)測位]

基準点(局)に設置した受信機と位置を求める受信機のコードを利用して測位する手法です。基準局の座標は既知なので、「衛星軌道」「衛星時計」「電離層遅延」「対流圏遅延」の誤差がなければ、衛星と基準点の測定された距離は、衛星の座標値と基準点の座標値の差で計算される距離と厳密に一致するはずです。実際は観測値と計算値の間には差がありますので、これがこれらの誤差要因によるもの推定できます。基準点に設置した受信機はコードの補正距離とその座標を無線通信により移動局に送信します。移動局は受信した補正情報と基準点座標を利用して、自局で観測したコード情報に加えて位置を計算します。「衛星軌道」と「衛星時計」の誤差は共通ですが、「電離層遅延」と「対流圏遅延」の誤差は基準局と移動局が遠くなるほど違ってきますので、この時の測位精度は基準点から離れるほど低下します。

[リアルタイムキネマティック(RTK)測位]

単独測位やDGNSS測位はコードによる距離のみを利用しますがRTKではコードと搬送波位相を利用することでセンチメートル級の精度を実現します。搬送波位相を用いることで、波長が短く分解能の高い距離測定ができるため、精度を向上させることができます。搬送波位相の差分を、基準局で観測したデータと移動局で観測したデータについて取ることと、衛星間の差分を取ることで、「衛星軌道」「衛星時計」の共通誤差を消去し、「電離層遅延」「対流圏遅延」についても近距離ならば同じとみなしてほぼ消去できます。しかし遅延の量が異なってきますので、DGNSS測位と同様に、測位精度は基準局との距離に依存することになります。

[ネットワーク型リアルタイムキネマティック(NW-RTK)測位]

RTK測位は単基線で行われますがNW-RTKはあらかじめ設置された複数(3点以上)の基準局を利用する方法であり、補正情報は複数の基準局でリアルタイムに計算されます。ユーザーから要求される位置の補正情報は内挿計算されます。

精度はRTK測位では距離に依存する部分が大きいですがNW-RTK測位では距離に依存する部分が周囲の基準局により緩和され約2分の1になりますので局間の距離を長くすることができます。

[精密単独測位(PPP: Precise Point Positioning))]

精密単独測位は、厳密には「リアルタイム」に精密な位置がもとめられるわけではありませんが、便宜上ここで説明します。

単独測位ではコードのみを利用して位置を求めますが精密単独測位ではコードと搬送波位相を利用して位置を求めます。狭い意味での「精密単独測位」は、受信点のみで観測したデータから「衛星軌道」「衛星時計」の補正量を推定し、搬送波位相を含めて衛星と受信点間の距離を観測して座標値を決定します。そのため、精密な位置が決定できるまでに数十分の「収束時間」を必要とします。

最近よく利用されている広い意味での「精密単独測位」では地球上に設置した参照局で計算される補正情報を利用します。「衛星時計」「衛星軌道」および衛星内部の回路に起因する「信号バイアス」に関する精度の高い補正情報が生成されます。これらを測位衛星にアップリンクして放送する方法とインターネットで配信する方法があります。

この補正情報は衛星側の要因なので、受信点の位置には関連しません。これらを利用してさらに推定の精度を上げる計算を収束させて、衛星と受信機間の距離を求めて位置を計算します。搬送波の波数不確定は決定せずに位置を求めますので安定するまでに数分から10数分を要します。準天頂衛星で配信されているMADOCAによる補正方式はこれに該当します。

精密単独測位には地域的に密度の高い参照局を設置して、電離層遅延や対流圏遅延のローカルな補正情報を生成し、位置を持たせた補強信号を配信する方式もあります。準天頂衛星システムのCLASがこれに該当します。ローカルな補正情報まで加えることで、補正情報の空間分解の・時間分解能にもよりますが、収束時間は1-2分程度まで短縮することが可能です。

これらの手法それぞれで、座標決定までの過程において搬送波位相の波数不確定を決定しない方法と決定する方法があります。波数不確定を決定する方法はARアンビギュイティレゾリューションと仮想観測データ(OSR又はOBS)を利用する方法があります。それぞれPPP、PPP-AR、PPP-RTKと呼ばれています。

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